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旧制大阪高等商業学校

野球部応援歌 第一

作者不詳


<壱>
城の南に回天の
雄志磅礴 (ゆうしぼうはく)  三百年
(とき) 今到る新興の
覇気満々の野球団

<弐>
胡蝶たはむる花晨 (はなあした)
帰雁 (きがん) の月に啼く夕べ
此処 桃渓 (とうけい) はバットの音 (ね)
世を警 (いまし) むる響あり

<参>
望に燃ゆる健児等が
若き血潮の高鳴りや
旌旗一度 (せいきひとたび) 動く時
群雄忽ち旗を捲く

<四>
長棍一振 (ちょうこんいっしん) 風起り
万頃 (ばんけい) 波瀾澎湃 (はらんほうはい)
熱球衝けば地 (つち) 揺ぎ
瑰キの岩も崩るべし

<伍>
水明の郷 南欧の
スパルタの精 通ひ来て
(きた) へし腕は高潔の
気魄 (きはく) と共に示さなむ

<六>
挙世混濁 (きょせいこんだく) 浮華の浪
蜻蛉州 (あきつのしま) を呑まんとす
嗚呼危機到る 危機到る
救ふは誰ぞ 吾措 (われお) きて

<七>
濁流下に瞰視 (かんし) して
乾坤 (けんこん) の大 融和せば
気廓遼遠幽明 (きかく りょうえん ゆうめい と)
人導くの力あり


出典: 『大阪高商歌集 第一輯』(村山元著、1921年)。
振り仮名は現代仮名遣いによります。


曲は判明しておりません。


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[ 注 記 ]

<著作権について>

作者・曲とも全く不明です。

<歌詞について>

妙に漢語の頻出する歌詞です。漢籍調の大袈裟な歌詞が楽しい一方で、自分以外に誰が濁世を救おうか、という寮歌調の部分も見られます。
曲は判明しておりませんが、当時流行した旧制一高寮歌 『アムール川の流血や』(明治34年、栗林一宇作曲) に合わせて歌うことが可能です。

"桃渓(とうけい)" - 当時の大阪高商の所在地、桃谷(烏ヶ辻)のこと。

"長棍(ちょうこん)" - 長い棍棒。バットのこと。

"万頃(ばんけい)" - 広々とした地面・水面。

"瑰キ(かいき)" - 「キ」 は 王 + 奇。
「バットを振れば辺り一面嵐が起こり、ボールを打てば大地が揺らぎ、巨岩も崩れる」 - この大袈裟な表現がまさに漢籍調。

"蜻蛉州(あきつのしま)" - 日本の美称。

"乾坤(けんこん)" - 天地。


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Entaro NAGATANI, 2001-2006.
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