『寮歌妄言部屋』 表紙 > 改めて、「寮歌」 とは何か?
まず、「寮歌」 という言葉の範囲を表した図をご覧ください。
それぞれの意味合いの範囲を、円形によって表しています。複数の円内に属する部分は、いくつもの意味合いが重なっていることを表します。
「寮歌」 とは、本来は 読んで字の如く 「寮の歌」 のことです(図中 「A」)。
ですから、会社の寮の歌だろうと、小学校の寄宿舎の歌だろうと、アメリカの高校の寮の歌だろうと、「寮の歌」 は 「寮歌」 なのです。
しかし、例えば Yahoo! JAPAN などで 「寮歌」 を対象語句として検索すると、特殊な世界のページを見ることができるでしょう。図書館などで、「寮歌」 のつく書名の本を検索しても同じ結果です。
そこには、フンドシに下駄、そして黒いボロボロの学生帽にマントが似合う歌の世界があります。(そして、女性はまず登場しないのです。)
単なる 「寮の歌」 ではないことに気付かれるでしょう。
つまり、図中 「B」 で示されている、日本の 「伝統ある学生歌」 というぐらいの意味合いで、 「寮歌」 という言葉が使われているようだ、と分かります。
世の中には、さらに意味を限定して、「旧制高等学校の歌」(図中 「D」) のみを 「寮歌」 と呼んでいる人々も存在します。
「日本寮歌振興会」 などのグループがそれで、「全国に38校あった旧制高等学校の寮歌は、全部で二千五百余曲」 (曲数は、「日本寮歌振興会」 神津委員長による) というように、かなり限られた歌だけを 「寮歌」 と呼んでいます。
「寮歌祭」というコンサートをご存じでしょうか? 初めて聞く方は、私の体験記 (1997) を読んでみてください。
東京では毎年秋頃、日比谷公会堂で行われていた会で、平均年齢70歳? の方々が舞台で 『寮歌』 を歌っておられました。主催は、前述の 「日本寮歌振興会」 などです。
寮歌祭の舞台に登場する 「寮歌」 は、旧制高校 (一部ほかの旧制学校を含む) の歌ばかりです。(つまり、図中 「C」)。
ですから、寮歌界では、「寮歌」 すなわち 「旧制高校(ないしは、旧制学校)の学生歌」、 という認識があるのです。
私の 『妄言部屋』 では、それよりはやや広く 「寮歌」 = 「伝統の学生歌」 (図中 「B」) と定義いたします。
しかし、ここで疑問に思う方もおられるでしょう。
上図で、「旧制学校の学生歌」(「C)の中に、「寮の歌」(「A」)には該当しない部分があるが、これも 「寮歌」 なのか? と。
実は、寮歌界のものの本を調べると、やはり狭義の 『寮歌』 とは 「旧制高校の寮の歌」(図中 「AかつD」)なのです。
それが、「旧制高校にはみな寮があった、寮あっての旧制高校だ」 という前提があることから、広義には、「旧制高校 (および同類の旧制学校) の歌」= 「寮歌」 (図中 「C」) となっているのです。
では、旧制高校にはみな施設としての寮があったのでしょうか?
実は、一部の都会派の高等学校には寮がありませんでした。例えば、旧制浪速高等学校(現在の大阪大学の一部)・旧制甲南高等学校(現在の甲南大学)です。いずれも、関西の都市在住の学生が殆どでした。
これらの学校の歌も 「寮歌」 と呼べるのでしょうか?
実は、「寮歌」 の世界では、施設としての寮があったかどうかが重要ではなく、歌に込められた魂が重要らしいのです。
寮で寝食を共にした学生たちの魂を伝えてくれる歌、それが 「寮歌」 なのです。
その魂とは?
友情 ・ 理想(真善美) ・ 自治。
悪く言ってしまえば、青臭い若造の心です。
だから、寮歌には、自分達こそが日本を背負っているんだ!というような妙に気負った歌もある一方で、
現実逃避気味の歌(実は反戦の歌)や、とても涙もろい歌、古今東西ロマンの世界に浸り切ってしまっている歌、
僕らはみんな仲良しだ、飲んで踊って楽しいな調の歌......
など、さまざまな心の歌があるのです。
重要なのは、旧制学校の 「寮歌」 の多くが、学生たちが自ら作詞/作曲したものである、ということです。
まさに、多くの無名 (とばかりは限りませんが) の学生たちが遺した、一種の文化財なのです。
ですから、「寮歌」 を 「現代の万葉集」 とか 「現代の漢詩選」 と呼ぶ人もあります。
ぜひ、寮歌文献やリンク先サイト等で、その歌詞をご覧ください。
また、寮歌CD・テープや、できれば寮歌祭で、その歌声に触れてください。(注意: 初めて寮歌祭に行くと、その 「音程の外れ方」 に驚愕するかもしれません。しかし、寮歌は基本的に楽譜通りに歌うものではなく、心(情熱 = パトス)を歌うのです。この点は、いずれ別ページで記述します。)
そこには、現代の我々にはない類の教育・文化の蓄積があります。
歌詞の解釈には、特に古文・漢文の素養が必要です。
(もちろん、素養の乏しい私には、寮歌の歌詞は難解です。)
以下、編集中